リンパ腫とは?


リンパ腫は血液の細胞であるリンパ球ががん化した疾患であり、犬において最も発生頻度の高い悪性腫瘍の1つです。B細胞性とT細胞性に大別され、発生部位や悪性度などからも様々なタイプに分類されますが、リンパ腫は治療の主体は化学療法(抗がん剤)となります。 最も発生頻度の高い大細胞性(高悪性度)B細胞リンパ腫ではビンクリスチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、プレドニゾロン併用療法(CHOP療法)が最も良好な治療成績を示す標準的なプロトコールとして確立しております。しかし、CHOP療法は多くの症例に奏効するものの、残念ながら再発が認められるため2年生存率は約20%であり新しい治療方法が切望されています。特に高悪性度のT細胞リンパ腫はB細胞リンパ腫よりも更に治療成績が不良であり、多くのケースで早期に再発が認められます。


犬のリンパ腫における半身照射と抗がん剤治療の併用

抗がん剤治療のみでは、薬剤耐性の腫瘍細胞が残存してしまうことが再発の原因となると考えられておいます。リンパ腫のがん細胞は放射線に対して感受性が高いことを利用し、近年犬の高悪性度リンパ腫に対してCHOP療法中に完全寛解となった場合、CHOP療法の途中に放射線治療(半身照射)を初期治療として組み合わせる治療の有用性が報告されています(上半身と下半身に分けて、それぞれ別な週に半身ずつ照射することで、全身に放射線治療を実施します)。この治療により寛解期間や生存率が従来のCHOP療法単独と比較して顕著に改善したことが複数の論文において報告されました。

Matthew P. Best. J Vet Intern Med 2023.

 ・2年無再発生存率

  化学療法単独:0%

  化学療法+半身照射:56%

 ・2年全生存率

  化学療法単独:11%

  化学療法+半身照射:78%

 (※対象はB細胞リンパ腫のみ)

 

Lai Y-HE.Vet Comp Oncol 2025. 

・無再発期間(中央値)

  化学療法単独:316日

  化学療法+半身照射:1143日

・2年全生存率

  化学療法単独:27%

  化学療法+半身照射:71%

 

半身照射はCHOP療法を1〜2サイクル実施し、完全寛解に到達した時点で実施することが重要となります。(半身照射終了後にはCHOP療法を再開します。)

半身照射は一部の二次診療施設のみで実施可能な治療方法であるため、当院では放射線治療施設と連携しCHOP療法と半身照射の併用治療を取り入れております。


犬のリンパ腫に対する新規治療薬 Verdinexor

 

Verdinexor2021年に米国FDAにて承認を得た犬のリンパ腫の新規治療薬(経口剤)です。

Verdinexorは、既存の抗がん剤とは全く異なる作用機序であるため、CHOP療法に耐性を獲得している腫瘍細胞にも効果を発揮する可能性があります。また、リンパ腫の多くの抗がん剤は注射薬であり特にCHOP療法では頻繁な通院や高額の治療費が必要となりますが、Verdinexorは経口薬(錠剤)であり頻回の通院が必要となるCHOP療法が様々なご事情のため現実的に実施困難なご家族にとって新たな治療の選択肢の1つとなりえます。

 

2023年時点で、Verdinexorの有用性は犬のリンパ腫における単剤治療での報告に限られますが、CHOP療法後のリンパ腫の再発防止のための維持治療としての使用や骨肉腫、膀胱癌、悪性メラノーマ、グリオーマなど固形がんでの有用性も期待されています。

実際、人医療においてはVerdinexorの姉妹薬であるSelinexorをリンパ腫の治療にCHOP療法と併用することでの相乗効果や、様々な固形がん(グリオーマ、悪性末梢神経鞘腫、卵巣がんなど)におけるSelinexorの抗腫瘍効果も報告されています。

Verdinexorによる犬の固形がんの治療

 

当院ではCHOP療法に用いる抗がん剤以外に、CHOP療法耐性となったリンパ腫に用いる様々な薬剤を取り扱っております。

CHOP耐性となった際に実施可能なレスキュープロトコールの例

・ロムスチン(or ニムスチン)+L-アスパラギナーゼ

・テモゾロミド+ アクチノマイシンD

・アクチノマイシンD、シタラビン、メルファラン、デキサメタゾン

 

取り扱い可能なリンパ腫の治療薬

・ドキソルビシン、エピルビシン、ミトキサントロン

・ドキシル

・ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン

・シクロホスファミド

・L-アスパラギナーゼ

・クロラムブシル

・メルファラン

・ロムスチン、ニムスチン

・シタラビン

・Verdinexor

・プロカルバジン

・テモゾロミド

・アクチノマイシンD

・カルボプラチン

・イソトレチノイン(上皮向性リンパ腫)