Verdinexorによる犬の固形がんの治療


 

Verdinexor(Leverdia®)は近年、リンパ腫に対しての新規治療薬として米国にて新たに承認を得た動物用医薬品ですが、この薬剤の作用機序からはその抗腫瘍効果はリンパ腫に限定的なものではなく、様々な腫瘍に有効な可能性があります。

実際、Verdinexorと構造・作用が類似した人の薬剤であるSelinexorは、リンパ腫や多発性骨髄腫などの血液腫瘍以外に軟部組織肉腫や脳腫瘍(グリオーマ)などでの有効性が示唆されており、ドキソルビシンなどの既存の抗がん剤との併用での相乗効果も報告されております。

犬においては、骨肉腫、メラノーマは腫瘍細胞がVerdinexorに対して感受性を有することが報告されており、2024年に米国の学会(Veterinary Cancer Society)において既存の抗がん剤であるドキソルビシンとの併用の安全性について報告されました。

 

犬においてVerdinexorの使用が考慮される固形がんを下記に例示いたします。

 

 

1) 切除不能な軟部組織肉腫ドキソルビシン+VerdinexorあるいはVerdinexor単剤

 

軟部組織肉腫は血管周皮腫や線維肉腫などの肉腫の総称ですが、他の固形がんと比較して転移率が少なく典型的には局所進行が問題となります。また、放射線治療や化学療法に対して感受性が低いこともあり、切除可能なケースでは外科手術が最も有効な治療方法となります。

しかし、軟部組織肉腫の一部は転移や再発のため切除不能となることがあり、このようなケースでは放射線治療や化学療法が必要となります。化学療法剤はドキソルビシンが最も有効ではありますが、奏効率が低く新たな治療方法が求められています。

人の軟部組織肉腫においてはドキソルビシンとSelinexorの併用によりドキソルビシン単剤を上回る効果が示唆されております。

Lewin J, Eur J Cancer 2021

 

 

2)骨肉腫(転移病変):ドキソルビシン+VerdinexorあるいはVerdinexor単剤

 

犬の骨肉腫は四肢の骨などを原発に発生し、この場合には断脚+術後化学療法(カルボプラチン)が最も有効な治療方法であり標準治療として確立しております。しかし残念ながらこの治療をもってしても多くのケースでは遠隔転移を生じてしまいますが、転移病変において有効な治療方法は確立しておりません。犬の骨肉腫の腫瘍細胞株を用いた研究では、Verdinexorが抗腫瘍効果を有し、またドキソルビシンと相乗効果を示す可能性が報告されております(Breitbach JT, Vet Comp Oncol 2021)

 

3) 悪性メラノーマVerdinexor単剤

 

犬の悪性メラノーマは口腔内からの発生が最も多く、極めて転移率の高い腫瘍です。局所病変については外科切除や放射線治療が有効ではありますが抗がん剤治療に対しては感受性が低いため、転移病変の進行が死因となってしまうことは少なくありません。犬の悪性メラノーマの腫瘍細胞株を用いた研究では、Verdinexorがメラノーマの腫瘍細胞に抗腫瘍効果を有することが報告されております(Breit MN et al. BMC Vet Res 2014)。転移病変の治療においての使用が考慮されます。

 

いずれの固形がんも犬においては有効性に関する臨床データは存在せず、Vedinexorの使用も適応外使用となります。